--大変だったのでしょうね。
それまで壁紙は、職人さんが選んで決めるものでした。
でも、インテリアコーディネーターはお客様と一緒になって壁紙の色や柄を決める存在になりました。建築材は職人さんが決めるとしても、壁紙はお客様が「自分が選んだ」と実感が持てる素材だったんです。
--お客さんの後押しをする仕事だったんですね。
90年から2000年にかけては、壁紙もバリエーションが広がった時期でした。バブルの頃で量産品の壁紙も出てきて、消費意欲と共にコーディネートの需要も伸びて行きました。コーディネーターの腕が振るえた時代でしたね。
床が無垢材で、壁の途中まで腰板を貼って、そこから上は壁紙を貼り、さらに天井にはボーダーを付けてまわす、といったイギリス風、ヴィクトリア風の邸宅のような凝ったデザインもできた時代でした。
--「リビングデザインセンターOZONE」について教えてください。
「リビングデザインセンターOZONE」は、1994年に、新宿パークタワーの3~7Fの5フロアに住まいとインテリアの情報センターとして誕生しました。
毎日を快適に、暮らしが楽しくなるような住まいの実現に向けたインテリアコーディネートを紹介するスペース「インテリアエレメンツ」開設に私も関わることになりました。
日本中にあるインテリア商材のほとんどのカタログと実物サンプルが集められているので、ここに来たお客様は自分の眼で見て、比べて、実際に触れて選んでもらうことができます。
--どのようなコンセプトの施設なのですか?
この施設は特定のメーカーではなく、ニュートラルに運営されています。コーディネートのアドバイスはするけれど、売り込むことはしません。
そのため、私はこの施設のオープン時からお客様に「ありがとうございました」と言って帰っていただけるような施設にしたいという想いがありました。私たちがプロとして最高のアドバイスをすることで、お客様が「良かった」と思っていただける場所にしたかったんです。
--ここではアドバイスがもらえるわけですね。
スタート時は無料で相談に応じていましたが、98年にOZONEインテリアスタジオを立ち上げ、インテリアコーディネーションを有料で提供する施設をつくりました。
無料だとやはり責任感に欠けたアドバイスになってしまうんですね。
これからの時代は責任を持たなければいけないと思い、コーディネーションをひとつのソフトと位置付け、有料にしてその分真摯な対応をしよう、ということに転換しました。
--真摯なアドバイスとは?
お客様はよく、「住宅メーカーのコーディネーターと話をしていると、地味な柄の壁紙しか提案してくれない。なぜ、と聞くと予算内で収まるのはこれしかないから、と答える」とおっしゃいます。
でも、ここでは「予算内はこうですが、他にもこういうものがありますよ」と提案することを心がけています。
住宅のハウスコーディネーターからそのような提案ができないのは、予算を住宅メーカーの営業が管理しているからなんです。予算をオーバーするといっても壁紙ですから、そんなに高いものではありません。
ここでは住宅メーカーの思惑が関与しない、フリーのコーディネーターがプランを提供できるような場所にしたかったんです。
--どのようなお客様が相談に来られますか?
「リビングデザインセンターOZONE」で分かったことは、世の中にはいろんな想いを持たれている方がいる、ということでした。
たとえば、壁を真っ赤にしたい、天井を紫にしたいといったご相談もあります。でも、それを住宅メーカーや工務店、設計者に話しても馬鹿にされるだけで、聞いてくれたのは「リビングデザインセンターOZONE」だけだと言われたこともあります。
--今はどのような傾向がありますか?
最近は、北欧スタイルが人気で、次が和です。暮らしに密着しているシンプルモダンな傾向です。クールではなく、温もりを求めていると言えますが、横並びな印象で自分らしい表現をインテリアでしようとしなくなっているのかもしれません。
トレンドだから白い壁紙とか、木目の壁紙を選ぶのではなく、もっと自由に色とかパターンで遊ぶのがよいと思います。
--これからの壁紙はどうなるでしょう?
これからの壁紙に求められるのは「質感」と「風合い」です。ぬくもりとか温かさ、居心地がいいと聞いて浮かぶ「質感」。シルクよりもウールのような「風合い」。
バブルのころはメタリックな質感が人気でしたが、今後は手触り感のあるものが人気になっていくと考えています。私は若手のデザイナーに着目しています。
--若手のデザイナーはどなたに注目されていますか?
三原康裕さんに注目しています。1972年生まれで、靴のデザインからスタートしたデザイナーです。シワをつけて表情を演出したチェックの生地を写真に撮って壁紙を作ったりされています。
布のパッチワークを表現した柄などは質感と風合いのある個性的な柄で、見るとはっとします。
--質感と風合いですね。
でも、そこを追いかけると壁紙は負けてしまうんです。だって、石の柄より、実際に石を貼ってしまった方が質感と風合いは良いですからね。
だから、印刷技術で質感や風合いをどこまで表現できるかにかかっているようにも思います。
--壁紙の未来はどうお考えですか?
質感や風合いといったデザイン思考と、消臭などの機能も必要になっていくでしょうね。
また、塗り壁が壁紙の対抗馬として伸びていくのではないかと考えています。伝統的な手法を使ってペイントと壁紙を製造している英国のラグジュアリーブランド「Farrow&Ball(ファロー&ボール)」に注目しています。
ここが凄いのは、壁紙と塗装が共存しているところです。塗装とセットで使うことで壁紙の質感と風合いが際立つんです。
--さらに高度になっていく、ということですね。
質感や風合いが求められていくけれど、今の壁紙にできないのは、その質感と風合いを出すことです。その弱点を克服するために、デジタル技術を駆使して平らなのに立体的なデザインにする方法があるでしょう。
また、それを突き進めれば、3Dのようなグラフィック処理をしたものや、ホログラフになるかもしれません。
もっと言えば、テクノロジーで違うジャンルの壁紙を作って行かないといけないと思います。良い壁紙を作る努力は当然しなければいけません。でも、今のままの努力をしてもだめだと思うんです。
--と言うと?
技術を試すような実験的なものに費用をかけてチャレンジすることも大切だと思います。今は企業は技術にコストをかけにくくなっています。もっとみんなを驚かせるようなことをやらないとダメだと思います。
--どうすればいいとお考えですか?
そのためには、三原康裕さんのような、壁紙とは違うジャンルからのデザイナーを登用してみることです。
たとえば、スイーツのデザインをしている人とか、お花のデザインをしている人とか。空間と暮らしはイコールだと考えれば、どんなジャンルから来ても良いと思います。
今までは専門的な技術で作り上げることがプロでしたが、壁紙の世界だけで見るのでは了見が狭い。これだけさまざまなテクノロジーがあれば解決できると思うので、ぜひ、その取り組みをしてもらいたいものです。
(以上、全てリビングデザインセンターOZONE内)